法律文献の記録

司法修習や,憲法学の研究で読んだ文献の備忘録として

国家公務員法改正

令和3年6月16日,改正国家公務員法が公布された。

今回の改正は,強制労働廃止条約締結に向けて,国家公務員がストライキ等に参加したときの罰則を懲役刑から禁錮刑にするために行われたものである。

なお,国家公務員法は,昨年,当時の黒川弘務東京高等検察庁検事長の定年延長問題により,定年を65歳に引き上げる旨の法案が廃案とされたが,令和3年の通常国会で成立し,改正されている。

 

政治的行為をした場合に,国家公務員は処罰されてきた(猿払事件,堀越事件,宇治橋事件)。

また,ストライキも,処罰されてきた(第1期:政令201号事件,国鉄檜山丸事件,和歌山県教組事件,第2期:全司法仙台事件,全逓東京中郵事件,東京都教組事件,第3期:全農林警職法事件,全逓名古屋中郵事件,岩手県教組学テ事件)。

 

国家公務員が,政治的行為をした場合には,国家公務員法102条1項,人事院規則14-7に違反したとして,同法110条1項19号により,3年以下の懲役または100万円以下の罰金を科すとされている。

また,国家公務員が,争議行為をそそのかしたり,あおったりした場合には,国家公務員法98条2項前段に違反したとして,同法110条1項17号により,同様の刑罰を科すとされている。

 

令和3年の通常国会(第204回国会)で,これらの規定を定める国家公務員法等は,「強制労働の廃止に関する条約(第105号)の締結のための関係法律の整備に関する法律案」により改正された。議員立法で改正されている。

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日本は,強制労働廃止条約を批准していない。条文は,ILOのホームページに掲載されている(1957年の強制労働廃止条約(第105号))。

 

厚労省によれば,国家公務員法等の国内法制と整合性の面から批准することが困難であるため,G7の中で唯一批准してこなかった(https://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/04/dl/s0418-6e.pdf)。

 

強制労働廃止条約1条の強制労働に該当するおそれがある,法律で定められている刑罰が懲役刑となっているものが,禁錮刑に改められた(法律案要綱,https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/housei/pdf/204hou23youkou.pdf/$File/204hou23youkou.pdf)。法律案では,国家公務員法以外にも,地方公務員法等もあわせて改正されている。

 

国家公務員法の場合,これまでの同法110条1項17,19号の規定が削除され,同法111条の2第1,2号と改正されている(法律案新旧,https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/housei/pdf/204hou23sinkyu.pdf/$File/204hou23sinkyu.pdf)。