法律文献の記録

司法修習や,憲法学の研究で読んだ文献の備忘録として

飲食店への要請~営業の自由等の観点から~

飲食店に対して,政府は,感染拡大防止のため,様々な要請を行ってきたが,問題が多いように思う。

 

酒類提供停止の要請

 京都大学の曽我部真裕教授も指摘されているように,特措法の政令で,特措法に基づき,まん延防止等重点措置が適用された場合,都道府県知事が酒類提供を停止できるとしているが,特措法の委任の範囲を超えているように思う。

 政府関係者は,バーや居酒屋も,酒類を提供しなくとも,ソフトドリンクや軽食を提供して営業できる以上,営業の自由を侵害しないなどと言っているが,酒類を提供することがバーや居酒屋の営業の中心にあるのであって,言いがかりのように感じる。

 酒類提供を停止させたいなら,正面から特措法を改正して,行うべきであったと思う。もちろん,立法によっても,居酒屋等に酒類提供させないことで,感染拡大防止に資するか,すなわち,立法事実があるか疑問ではあるが,特措法の政令で行うよりはましではある。

note.com

 

・グルメサイトを使った評価

 グルメサイト(食べログなど)で,客に評価してもらう仕組みを導入しようとしているが,グルメサイトは,コロナの前から中傷的なコメントを投稿する人はおり,意味をなさないように思えてほかならない。 

www3.nhk.or.jp

 

酒類提供の飲食店との取引中止要請

 政府は,緊急事態宣言(東京都を対象とするものは2020年4~5月,2021年1~3月,4~6月に引き続き,7月~8月の4度目)の対象地域に関して,酒屋などの販売事業者に対し,酒類提供停止要請に従わない酒類を提供する飲食店との取引を中止するよう,要請する意向である。

 もはや要請の名を使って,やりたい放題としか言いようがない。

www.fnn.jp

 

 

時短要請や休業要請といった政府がこれまで行ってきたコロナ対策は,営業の自由を制限することにつながるが,立法事実があって行うのであれば,基本的に問題はない。しかし,政府は,なんとなく感染拡大させてそう,飲食店に対して要請すれば,国民に対して外出を自粛してもらう効果がありそうといった,漠然とした根拠で行っているように思える。実際,対策をしているような百貨店に対しても,休業を要請していたこともあり,人々によって魅力ある場所を閉めれば,人々が外出しないであろうという効果を狙っている(分科会の尾身会長が,NHK日曜討論でこのような趣旨の発言をされていた。)。

 

営業の自由を制限するならば,特措法の政令に基づいて行うのではなく,立法で行うべきであり,これは法律の留保原則からもそのように言えると思う(まさに,侵害留保説が妥当する場面であるし)。

また,営業の自由を制限するならば,要請ではなく命令で行い,協力金ではなく,補償という形で行うことも必要になるであろう。憲法29条3項の損失補償にはあたらないかもしれず(判例通説の,消極的・警察的規制であれば補償は不要という考え方),義務的補償をしなければならないとはいえなくても,多くの事業者に協力してもらうためには,政策的補償としては要求されるのではないか。

さらに,飲食店以外にも,百貨店や映画館,美術館などにも休業を要請していた(スクリーンだけの映画館が駄目で,演者のいる小劇場がOKな理由はよくわからないが)。飲食店のように,マスクを外したり,マスクを外して会話したりしないであろう,百貨店などは,感染拡大の根拠が乏しく,外出自粛を狙ったものであるといえよう。個別に時短・休業要請するぐらいなら,欧米諸国のように,正面から外出禁止命令を出すことができるよう,移動の自由等の問題はあるが,法改正によるべきではないか。

 

この1年以上の日本のコロナ対応は,命令ではなく,要請によってきた。しかし,要請は,あくまでお願いであって,従うか従わないかは,各人・各事業者の(自由な)判断によるものであり,強制することはできないはずである。それが,日本特有の同調圧力等から,要請に従わない人はいけないと,脅迫文まがいの貼り紙が貼られたり,抗議の電話がされたりしていた(店内飲食自粛の要請に応えて,要請外のテイクアウトだけの営業をしている飲食店にも,被害に遭うケースが散見される)。要請や,行政指導といったお願いベースの政策による限界が来ているのではないか。

 

最後に,2020年の春先は,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の猛威がどの程度のものかわからず,感染症によって,人々の生命・身体・健康を害するものであるから,少々やりすぎと思える政策や手段によっても,緊急性から正当化しえた。憲法上の予防原則が妥当する場面である(平成28年司法試験(性犯罪者に対してGPS装置を埋め込むことの合憲性が問われた問題)は,性犯罪者が再犯におよび,被害が生じることを予防できるか,予防原則が妥当するか検討させるものであったが,コロナは予防原則が妥当するといってよい)。

去年に比べれば,何が効果のある対策かも考えられるようになり,欧米諸国と比べて遅れていたワクチン接種も普及してきた現在,緊急性だけで何もかも正当化されるとはいえない。

 

長々書いてきたが,この投稿は,コロナが終息したころには,上記の問題のほかに,政府は,緊急事態宣言の発令や解除など,専門家の判断をどこまで尊重すべきかといった問題など,憲法学,政治学といった観点からも,あらゆる問題が振り返られると思うが,2020年春から何が行われたか記憶に残しておくための雑感である。