法律文献の記録

司法修習や,憲法学の研究で読んだ文献の備忘録として

最近の最高裁判決等

ここ最近の憲法判断が示された最高裁判決等を備忘録がてら整理しておく。

 

最判令和2.11.18(大法廷)

 令和元年施行の参議院議員通常選挙に関する定数不均衡訴訟の最高裁判決。

 投票価値の平等が,不平等の状態にあるとはいえないとした。

 https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=89841

 

最判令和2.11.25(大法廷)

 地方議会の出席停止処分に関し,司法審査の対象とならないとした昭和35年判例最判昭和35.10.19民集14巻12号2633頁)を判例変更し,司法審査の対象となるとした(岩沼市議会事件)。

 https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=89851

 

最判令和3.2.24(大法廷)

 那覇市が,同市が管理する松山公園に孔子廟の設置を許可し,敷地の使用料を全額免除した処分は,政教分離憲法20条3項)に反するとした。政教分離は,ずっと研究していたところであり,検討しているが,悩ましい判決である。 

 https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=90039

 

最判令和3.3.18

 要指導医薬品のネット販売を規制する医薬品医療機器等法(薬機法)36条の6第1,3項が,憲法22条1項に反しないとした(楽天敗訴)。 

 https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=90141

 

・最決令和3.6.23(大法廷)

 夫婦別姓を希望すると記載した婚姻届を不受理とした市長の処分に対し,戸籍法122条に基づき,届出の受理を命ずることを申し立てた事案につき,夫婦は同姓とする民法750条,戸籍法74条1号は,憲法24条1項に反しないとした。平成27年に夫婦同姓とする民法750条は,合憲であるとした判決(最判平成27.12.16民集69巻8号2586頁,https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=85546)のわずか約6年後に出されたことが注目に値する。朝日新聞デジタルに,最高裁判事のせめぎ合いがあったのではないかとする記事が掲載されている。

www.asahi.com

 https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=90412

 

・最決令和3.6.28

 ノバルティスファーマと元社員が,高血圧治療薬の臨床研究のデータを改ざんしたとして,医薬品の虚偽広告を禁じた薬事法違反(平成25年法律第84号による改正前のもの)66条1項(現:薬機法66条1項)で起訴された事件で,1,2審で無罪を言い渡され,最高裁が検察官の上告を退ける決定をした。山口厚裁判官の補足意見で,本件は,憲法適合的解釈がされたのであり,合憲限定解釈の手法をとったものではないとしており,ますます両者の差がわからなくなるように感じている。

 https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=90456

 

・在外邦人国民審査制限事件

 在外邦人が,衆議院議員総選挙の際に,最高裁判事の国民審査をすることができず,国に対し,国民審査権の確認と国家賠償等を求めた事件について,最高裁は,令和3.6.23に大法廷回付とする決定をした。なお,第1審(東京地判令和1.5.28),控訴審(東京高判令和2.6.25)は,いずれも違憲判決を下している。

刑裁修習3

最後に,事実認定に関して。

 

白表紙の『刑事事実認定ガイド』が大事なのは,言うまでもないが,それ以外に読んだものを。

 

・植村立郎編『刑事事実認定重要判決50選(上・下)』(立花書房,第3版,2020)

 刑法総論・各論,刑事訴訟法を網羅しているが,50選と言いながら,84個も掲載されており,50選ではない(笑)。

 

その中でも,読んだものをあげておきます。

 

・河畑勇「「被告人」の自白の信用性」

 最決平成24.2.22判時2155号119頁

・ 池田修「「共犯者」の供述の信用性」
 最判平成21.9.25判時2061号153頁

・蛯原意「「目撃者」の供述の信用性」
 東京高判平成7.3.30判時1535号138頁

・松田道別「「被害者」の供述の信用性」
 最判平成21.4.14刑集63巻4号331頁

・大野洋「犯人性に関する総合認定」

 最判平成22.4.27刑集64巻3号233頁

 

・熊代雅音「刑事事実認定についての2つの小考察」東京大学法科大学院ローレビュー14巻194頁

 最判平成21.4.14,最判平成22.4.27を題材に検討したもの。

 

 

それ以外には,司法研修所編『難解な法律概念と裁判員裁判』(法曹会)。

殺意,責任能力,共同正犯などについて,裁判員に対し,どう説明するか検討されたもの。

刑裁修習2

責任能力裁判員裁判の合憲性に続いて,量刑関係で読んだものを。

 

 <量刑の考え方>

・楡井英夫 「判解」『最高裁判所判例解説刑事篇(平成26年度)』

 最判平成26.7.24刑集68巻6号925頁の判例解説

 量刑判断において,行為責任主義の立場にたつことを宣言した判決

 

・原田國男「裁判員裁判における量刑傾向」慶應法学27号161頁

 裁判員裁判がスタートして,一部の犯罪類型では,量刑傾向が変化したことを指摘している(例えば,性犯罪が重くなっていることなど)。

 

・原田國男「量刑論」法学教室418号34頁

・小池信太郎「量刑判断の在り方」刑法雑誌55巻2号346頁

 上記平成26年判決と,裁判員裁判での死刑判決を控訴審が破棄して,無期懲役としたことを正当とした平成27年の最高裁判決2件等について,論じたもの。

 

<執行猶予>

・原田國男「執行猶予と幅の理論」慶應法学37号1頁

・樋口亮介「日本における執行猶予の選択基準」論究ジュリスト14号101頁

・小池信太郎「量刑理論からみた刑の執行猶予」刑法雑誌52巻2号243頁

 日本では,多くの執行猶予の判決が,単純執行猶予(保護観察が付されない)であるが,比較法的には珍しい(樋口論文)。懲役刑と執行猶予との対応関係(懲役1年6月,執行猶予3年など)の疑問があり,読んだもの。

 

<死刑>

・原田國男「わが国の死刑適用基準について」法学研究86巻6号21頁

 最高裁が,死刑か無期懲役かの基準として,昭和58年にいわゆる永山基準を打ち出しているところ,その中身について論じたもの。

 

・原田國男「裁判員裁判における死刑判決の検討」慶應法学22号93頁

 平成21年以降,死刑判決を下す場合には,裁判員裁判である必要がある(暴力団同士の抗争など除外決定されたものを除き)。裁判員裁判が始まった頃のものを検討したもの(論文の公刊は,平成24年)。

 

・樋口亮介「不遇な生育歴と責任非難」慶應法学40号177頁

 量刑判断に関して,加害者側の事情も見るべきであると論じたもの。被害者側は,刑訴法上,意見陳述権の規定があり,参酌することが可能ではあるが(最近でも,池袋の交通事故でも,被害者遺族が陳述している),加害者側の事情は考慮すべきであるとして,アメリカ法と比較したもの。

 成人事件と比べて,少年事件では,特に考慮すべきであるように思う。非行に走ってしまう少年は,不遇な家庭で育っている場合も多く,その少年が悪いと非難したところで,問題は解決しないのではないか。

 

 ほかに,永山事件(最高裁判決と,控訴審の船田判決),平成8年判決(死刑とした控訴審最高裁が破棄),平成11年判決(無期懲役とした控訴審最高裁が破棄),光市母子殺害事件(平成18年,24年),上記の平成27年の2判決にも,軽く目を通した。

 

・江藤祥平「憲法上の刑事手続の復権に向けて」論究ジュリスト36号93頁

 憲法学者の立場から(江藤先生は,LS修了後,修習行って,弁護士を1年ほどしてから,憲法学者に),刑事手続,特に裁判員裁判や死刑判決の量刑判断について論じている。

 

アメリ憲法では,capital punishment(死刑)の問題が論じられることが多く,日本でも憲法学者が考える必要があるように思っている。手続の問題の多くは,刑訴法の問題であって,わざわざ憲法学で論じなくてもよいだろう。しかし,憲法にも,刑事手続の規定が,31~40条と10か条もあるように,論じなくていいわけではないし,憲法学が論じるべきであるものもあるように感じている。 

刑裁修習1

まずは,責任能力で読んだものを

 

・高橋省吾「判解」『最高裁判所判例解説刑事篇(昭和59年度)』

 最判昭和59.7.3刑集38巻8号2783頁の判例解説

 精神分裂病(現:統合失調症)に罹患していた者の責任能力に関する重要な先例

 

・前田巌「判解」『最高裁判所判例解説刑事篇(平成20年度)』

 最判平成20.4.25刑集62巻5号1559頁の判例解説

 

・任介辰哉「判解」『最高裁判所判例解説刑事篇(平成21年度)』

 最判平成21.12.8刑集63巻11号2829頁の判例解説

 裁判員裁判が始まる頃に,責任能力の判断方法を示した2判例

 

岡田幸之「責任能力判断の構造と着眼点ー8ステップと7つの着眼点ー」精神神経学雑誌115巻10号1064頁

 刑事責任能力分野で,リードする精神科医による論文。

 

・樋口亮介「責任能力の理論的基礎と判断基準」論究ジュリスト19号192頁

・樋口亮介「責任非難の意義」法律時報90巻1号6頁

・小池信太郎「妄想と責任非難」法律時報90巻1号21頁

 

責任能力の判断は,法律家と精神科医の役割分担によって行うべきであるが,相互理解が求められるなど難しい。また,裁判員裁判対象事件で争われた場合,裁判員にも理解してもらう必要があるため,その考慮も必要であろう。

 

 

次に,裁判員裁判を傍聴して,裁判員裁判の合憲性を改めて考えてみて

 

・西野吾一「判解」『最高裁判所判例解説刑事篇(平成23年度)』

 最判平成23.11.16刑集65巻8号1285頁

 

・西野吾一「判解」『最高裁判所判例解説刑事篇(平成24年度)』

 最判平成24.1.13刑集66巻1号1頁

 

・宍戸常寿「司法制度改革の中の裁判官」駒村圭吾編『テクストとしての判決』(有斐閣,2016)

 

これまで,裁判員裁判についてあまり考えてこなかったが,適正手続の関係等,刑事手続も,憲法学者はしっかり勉強しておく必要があるように感じている。今後の課題である。